今週のセミナー発表の内容についてお知らせします。
「タイ東北部のサトウキビ栽培における効率的な施肥管理方法に関する研究」
タイ東北部は貧栄養で水分保持力の乏しい砂質土壌が広範囲に分布しており、さ
らにここでは不安定な降雨に依存した農業が行われているため、生産性が低く、
かつ不安定である。また、近年は農業の集約化が進行しているが、溶脱も激しく
、施肥の生産性向上への効果は大きくないと言われている。
1980年代以降、タイ中部からのサトウキビ工場の移転に伴い、東北タイにおけ
るサトウキビ作付面積は急激に拡大した。しかし、貧栄養砂質土壌や降雨の影響
でその生産は不安定なため、持続的な土地利用を行うための有機物の投与による
土壌改良やバランスのとれた施肥の重要性が指摘されている。そこで本研究では
、砂質土壌でのサトウキビ栽培における効率的な施肥管理方法を検討する。
しかし、研究に関しては未定のところが多いので、今回は論文紹介を行いたいと
思います。以下その要約です。
@タイ東北部におけるサトウキビの生産性に及ぼす栽培環境の影響
宮島知子 京都大学農学研究科修士論文
Khon Kaen県周辺のサトウキビ栽培農家圃場30か所を調査地として選定し、農家へ
の聞き取り調査や土壌分析、収量調査などを行った。その結果、窒素の投入量と
サトウキビの収量には相関が見られなかった。タイ東北部でのサトウキビ栽培に
おいては、土壌中の水分含量がその生産性を強く制限しており、粘土含量の高い
圃場において、収量が高くなる傾向が見られた。また、肥料投入量を増やすので
はなく、適量に抑えて溶脱する養分量を減らすことが、効率的な施肥管理におい
て重要であると考えられる。
A東北タイ・砂質畑作地における一作期中の土壌―作物間の窒素動態の解明
柴田誠 京都大学農学部卒業論文
化学肥料の施用が土壌中のN動態に与える影響を明らかにするために施肥区と無施
肥区を設け、トウモロコシの圃場栽培試験を行った。収穫までに施肥の約7割が
溶脱しており、特に雨季後半に顕著な溶脱が起きていた。しかし、作物生育は施
肥区で著しく良かったので、溶脱が起きたとしても施肥は必要である。そこで、
いかに窒素を土壌中に留めておくかが重要で、それには土壌微生物をシンクとし
て利用できるかもしれない。
BSoil Microbial Dynamics in Tropical Agroecosystems under
Different Land
Managements and Soil Textures
熱帯農業生態系における土壌微生物動態に関する研究〜土地管理・土性が及ぼす
影響〜
杉原創 2009 農学研究科博士論文
土壌生態系内の窒素(N)動態において土壌微生物は、「分解者」と「養分のシン
ク・ソース」として重要な役割を果たす。具体的には、「分解者」として土壌中
の有機物を分解・無機化することで植物に窒素を供給する一方で、「養分のシン
ク・ソース」として土壌微生物体内に養分を保持することで土壌生態系(特に表
層土壌)からの無機養分の流亡・損失を防ぐ一方、土壌微生物の死滅に伴い土壌
生態系へ養分を放出・供給することが知られている。土壌微生物動態(分解活性
や量的変動)に影響を与える気候や土壌環境などとの関係を検討した。
C交互部分根域灌漑が土壌微生物とトウモロコシの生育に及ぼす影響
Effects of alternate partial root-zone irrigation on soil
microorganism and
maize growth
Jinfeng Wang &, Shaozhong Kang, Fusheng Li, Fucang Zhang,
Zhijun Li,
Jianhua Zhang
Plant Soil (2008) 302:45–52
灌漑方法の違い(水ストレスの違い)が土壌微生物とトウモロコシの生育に与え
る影響について調べた。CI(ポット全体に均一に灌水)、APRI(ポットの2ヶ所か
ら交互に潅水)、FPRI(ポットの片側に潅水)の3種類の灌漑方法と3段階の水ス
トレスの組み合わせで、計9つの処理区を設けた。そしてそれぞれの土壌微生物
量を測定したところ、APRI区における土壌微生物量が高かったことから、土壌微
生物量は土壌中の水分量と密接に関わっており、過度に潅水するのではなく、APRI
のように土壌に乾燥と湿潤を交互に与えることで、土壌中の酸素と水分がバラン
スよく保たれれば土壌微生物の増殖は促進されると考えられる