要旨: 
 コリアンダー(Coriandrum sativum)は地中海東部沿岸を原産地とするセリ科の二年生作物である。東南アジア大陸部へはインドまたは中国を経由して伝わった可能性が考えられるが、文献による情報が少なく詳細は明らかではない。栽培植物の伝播経路について考える際、文献による情報が少ない場合、その植物の植物学的特性が重要な情報となりうる。


 これまで主にインドとタイのコリアンダー在来品種系統について、形態的特徴及び生態的特徴を比較してきた。その結果、果実形態はインドでは大型楕円形、タイでは小型球形の品種が多く、明確な差異が存在した。しかし、タイにはその他にも中型楕円、小型楕円など中間的な形態も見られた。また、開花特性ではインド、タイの品種とも早い花芽分化をした。果実形態に見られる明確な差異からタイの品種が中国由来である可能性が示唆されたが、一部インドのものとの交雑が起こっている可能性も考えられた。


 次にタイの隣で、中国南部とも国境を接するラオスで調査、収集を行った。ラオスでも在来品種は果実が小型のものが主であったが、球形のものとやや楕円がかったものが存在した。また、中南部では植物体のサイズの違う2種類が主だったのに対し、北部特に中国国境に近いところではこれらとは別のサイズのかなり小さい品種も見られ
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