東南アジアにおいて農業生産は水利条件に恵まれた地域における稲作や大規模なプランテーションが主であり、畑作に関しては自家消費分を確保するための焼畑農業や小規模な耕作が伝統的に長い間行われていた。

世界的な人口の増加とグローバル経済の浸透を背景として、タイにおいては20世紀半ば以降に先進諸国からの農産物需要が急激に高まった。1950年代に輸出業への移転が始まり畑作物生産が急成長する。1961年から「国家経済社会開発計画」にて外貨獲得を目的とした換金作物栽培と、それに伴う大規模な森林伐採が行われた。1960年代後半には輸入代替工業化、1970年代には輸出志向工業化が、タイ政府によって進められた(三枝,2008)。これは緑の革命により高収量品種と化学肥料、農薬、農業用機械が投入され、効率性や生産性が向上したことが大きい。

しかし東南アジアのような湿潤熱帯地域では劣化の進んだ土壌あるいは、不規則な降雨のため、温帯地方に比べてその農業生態系は脆弱であると考えられており(田中,1997)、熱帯畑作を温帯畑作と同様にとらえることはできない。

本研究の調査地である中部タイ畑作地帯は、1950年代にタイで最初の大規模畑地開発が行われた地域である。そのため熱帯地域における大規模畑作のモデルケースとしてこれまでに多くの調査がなされてきた。

本研究は、中部タイ畑作地帯における作付体系を調査し、得られたデータと過去の先行調査によって得られたデータとを比較することで、現在の調査地の状況とその変遷を評価、分析することを目的とする。