イネ科穀類の中には、貯蔵澱粉がウルチ性とモチ性の両方を持つ種があり、トウモロコシはそのうちのひとつである。モチ性は、貯蔵澱粉に関する遺伝子が劣性ホモの時に発現し現し、その種子の内胚乳の澱粉がアミロペクチンであるためモチモチとした食感が得られる。
トウモロコシの起源は、紀元前約5000年ごろ、新大陸のメソアメリカである。その後、アジアに伝播したのは16世紀初めだといわれている。16世紀初めには、既に他の色々な穀類においてモチ性の品種は確立されていた。ここで、新大陸から導入されたトウモロコシにも、東南アジア大陸部でモチ性品種が確立し、東アジアのかなり広い地域に伝播した。そして現在各地域で在来品種が確立している。
モチ性の突然変異は、自然に起こるものである。新大陸でモチトウモロコシがまったく見られないのは、そこにモチ性に対する人々の嗜好がなかったため選抜されてこなかったからである。しかし、東南アジア大陸部の人々はモチ性のものに対して強い嗜好があり、意識的に選抜したため、短期間でモチ性の品種が確立したと考えられる。
現在、モチトウモロコシは、タイ北部からアッサムにかけての山岳地帯から東は日本までの広い地域にわたってウルチ性の品種とともに分布していると言われているが、その詳しい分布についてはあまり調べられていない。
そこで、今回の実験の目的は、ラオス・ベトナム、日本の在来品種を栽培し、生育特性を記録し、栽培した各個体からの葉を採取しアイソザイム分析を行うことによって、形態的特徴とアイソザイム分析の結果から系統間の関係・遺伝的多様性を明らかにすることである。