植物は、主に土壌中の窒素を吸収し利用することで成長に必要な窒素を得ている。しかし、中にはバクテリアを介して空気中の窒素を利用する植物も存在する。こういった植物は、共生している内生菌や根粒菌の空中窒素固定により、植物が利用できるようになったアンモニア態窒素などの窒素化合物を利用している。最近の研究では、空中窒素固定が植物の窒素源に大きく寄与している可能性(Yoneyama
et al., 1997) が指摘されている。
内生菌とは植物体内に共生している菌類であり、植物体の葉・根・茎などあらゆる場所に分布し、また様々な植物に普遍的に存在しており、近年、注目を集めている(CW
Bacon, 1986)。
サトウキビにおいても、窒素固定を行う内生菌が共生していることが指摘されている(Döbereiner,
1961)。内生菌は空中窒素固定を行ってサトウキビに窒素を供給し、サトウキビは内生菌に光合成産物を供給する相利共生関係が成り立っている。
実際、東北タイで行われた調査では、サトウキビが、施肥や地力によって植物体に供給される窒素量を超えた量の窒素を体内に蓄積した(宮島、2009)と報告されている。これは、サトウキビが内生菌の働きによって空気中の窒素を固定している可能性が高いためであると考えられる。本研究では、東北タイで栽培されているサトウキビにおいて、内生菌が実際に空中窒素固定をしているかどうかを、窒素の安定同位体存在比を測定することで分析する。また、内生菌による空中窒素固定がサトウキビの窒素源にどれほど寄与しているかを、窒素収支を算出することで明らかにする。