〜研究内容〜
東南アジア・東アジアにおける

キダチトウガラシの種子の休眠性

〜研究内容〜

1. 形態的特徴の違い

2. アイソザイム分析

3. 種子の休眠性

4. 日長反応性1

5. 日長反応性(作成中)

6. 台湾・バタン(作成中)

 東南アジア・東アジアに分布するキダチトウガラシの種子の休眠性を調べましたので、ここで紹介したいと思います。この論文の内容は熱帯農業(Japanese Journal of Tropical Agriculture)に掲載されていますので、詳しく御覧になりたい方は参照してください。

研究結果

材料と方法
 南西諸島系統の種子の発芽特性について調べました。恒温処理区(35、30、25、20、15℃)と変温処理区(35/30、35/25、35/20、35/15、30/25、30/20、30/15、25/20、25/15、20/15℃(昼間12h/夜間12h))を設けました。また、それぞれの処理区に対し、光照射区・暗黒処理区を設けました。
 東南アジアのキダチトウガラシ72系統の種子の休眠性についても調べました。恒温処理区(35、30、25℃)と変温処理区(35/30、35/25、30/25℃)を設けました(各処理区暗黒条件下)。

結果と考察
1. 南西諸島系統

 恒温・暗黒処理区では南西諸島系統の種子の発芽は抑制されましたが、変温処理区、光照射区では発芽が促進されました(Fig. 1)。これらの結果から、南西諸島系統の種子は休眠性を持っていると考えられます。南西諸島では、キダチトウガラシが鳥類などの散布により林の周縁部や住宅地の周辺で自生しています(Fig. 2)。これは、種子の休眠性に見られるように、南西諸島系統の半栽培化の状態に起因するのではないかと考えられます。
 また、20℃以下ではあまり種子の発芽率がよくありませんでした(Fig. 1)。南西諸島系統の種子は、25℃から35℃の間でよく発芽するようです。もし南西諸島系統の種子を発芽させたいのであれば、25℃以上・変温条件が好ましいと考えられます。普通自然界では変温条件ですので、温度に注意したらいいと思います。

Fig. 1. Germination of Capsicum frutescens on the Ryukyu Islands at various constant and fluctuating temperature regimes with light or constant darkness. A: at a constant temperature of 35°C and fluctuating daytime (DT) temperature treatments of 35°C. B: at a constant temperature of 30°C and DT of 30°C. C: at a constant temperature of 25°C and DT of 25°C. D: at a constant temperature of 20°C and 15°C and DT of 20°C. (Yamamoto and Nawata 2006)


Fig. 2-1. Weedy forms of Capsicum frutescens along unpaved roadsides on the Ryukyu Islands.
Fig. 2-2
. C. frutescens growing in the gap between the paved street and a concrete wall.
(Yamamoto and Nawata 2006)


2. 東南アジアのキダチトウガラシ72系統
 東南アジアのキダチトウガラシ72系統のうち47系統の種子は休眠性を示さず、どの処理区においても短期間で種子が発芽しました。これら47系統の植物体は残りの25系統よりも大きい傾向を示し、47系統内では植物体の大きさと種子の発芽に要する日数の間に負の相関関係が見られました。つまり、種子や植物体(各器官)が大きくなるにつれ、種子の発芽も早くなる、ということです。また、各系統内では、種子が一斉に発芽する傾向がありました。
 一方で、残りの25系統は休眠性を示し、植物体も小さい傾向を示しました。特に25系統のうち7系統は恒温・暗黒条件下で発芽が大きく抑制され、また果実は非常に小さく脱落性をもっていました。各系統内では、種子はばらばらに発芽する傾向がありました。
 これらの結果から、47系統はすでに栽培化され休眠性を失い、植物体の肥大化とともに種子がより早く発芽するのに対し、残りの25系統はまだ完全に栽培化されておらず、栽培化の途中段階にあると考えられました。以上のように、東南アジア・東アジアのキダチトウガラシは様々な栽培化の段階にあると思われます(Fig. 3)。
 それでは、原産地(中南米)から東南アジア・東アジアへもたらされたキダチトウガラシは、その時点ですでに様々な栽培化の段階にあったのでしょうか?それとも、伝播してきた後東南アジア・東アジア内で、様々な栽培化の段階が生じたのでしょうか?まだまだわからないことが多いです。

Fig. 3. 様々な栽培化の段階にあるキダチトウガラシ



なぜキダチトウガラシが自生するのかを少し考えてみました。まず、地域にある程度の頻度でキダチトウガラシが存在する必要があります。極端な話、全くキダチトウガラシが存在しなければ、自生が生まれることもありませんからね。そして、人間の選択圧が低いために、キダチトウガラシはさまざまな栽培化の段階にあり(野生型に近い状態を維持、完全に人間に順化されていない)、果実の大きさもまだ小さく、鳥に食べられます。すると、鳥は糞をし、あちこちにキダチトウガラシの種子をばら撒きます。東南アジアの湿潤温暖な気候が、キダチトウガラシの種子の発芽・生育を助け、結果的に地域のキダチトウガラシの頻度が維持されます(Fig. 4)。これらのことが絡み合うことで、キダチトウガラシが自生するのではないでしょうか・・・。

Fig. 4. なぜキダチトウガラシは自生するのか





(Reference)
Sota Yamamoto and Eiji Nawata. 2006. Germination Characteristics of Capsicum frutescens L. on the Ryukyu Islands and Domestication Stages of C. frutescens L. in Southeast Asia. Japanese Journal of Tropical Agriculture 50(3): 142-153.



注:このページの写真やグラフなどは既に論文に掲載されているもので、copy right は出版社(あるいは学会)にあります。無断に転用やコピーをしないでください。

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