〜研究内容〜
東南アジア・東アジアにおける

キダチトウガラシの形態的特徴の違い

〜研究内容〜

1. 形態的特徴の違い

2. アイソザイム分析

3. 種子の休眠性

4. 日長反応性1

5. 日長反応性(作成中)

6. 台湾・バタン(作成中)

 東南アジア・東アジアに分布するキダチトウガラシの形態的特徴を調べましたので、ここで紹介したいと思います。この論文の内容はTROPICS日本生態学会)に掲載されていますので、詳しく御覧になりたい方は参照してください。
 形態的特徴を調べるためには、まず植物を育てる必要があり、またその調査はとても暑いグリーンハウスの中で行うため、この実験が終わった後、少しの間植物の栽培やハウスでの仕事がいやになりました・・・。

研究結果

材料と方法
 東南アジア・東アジアに分布する90系統(南西諸島17系統、インドネシア13系統、タイ50系統、ベトナム8系統、ラオス2系統)の形態的特徴を調べました(図1)。

Fig. 1. Collection sites of C. frutescens in Southeast and East Asia. (Yamamoto and Nawata 2004)

 形態的特徴は、質的形質(花弁にスポットがあるかないか、花の器官の色、脱落性など質的なもの)と量的形質(花の器官の大きさ、果実の大きさ、種子の重さ、草丈、葉の大きさなどの量的なもの)について調べました。色などの形質については目で見て(目視)、長さなどの形質についてはノギスを使って測定しました。


結果・考察
1. 質的形質

花の器官 (see 形態(花の器官))  ・花弁の色
  ・花弁のスポット
  ・雌蘂の色
  ・葯の色
  ・花糸の色
   
果実 (see 形態(果実) ・未熟時の果実の色
  ・熟した時の果実の色
  ・果実の脱落性
  ・果実の先端の形
  ・種子の色
  ・萼の形
   
花柄・果柄 (see 形態(果実) ・開花時の花柄の位置
  ・花柄の色
  ・果実が熟した時の成り方
   
その他 (see 形態(草姿・葉) ・胚軸の色
  ・茎の色
  ・葉の毛の有無


 上記に示したような質的形質を調べたところ、東南アジア・東アジアに分布するキダチトウガラシを分類する上で、以下の11個の質的形質が有用であることがわかりました(Table 1, Fig. 2)。これらを用いて90系統を分類しました(see 3. 東南アジア・東アジアに分布するキダチトウガラシの分類

・分類する上で有用な11個の質的形質
花の器官 ・花弁のスポット 有り or 無し
  ・雌蘂の色 緑 or 紫
  ・葯の色 青 or 黄色ががった青 or 黄
  ・花糸の色 緑 or 薄紫 or 濃紫
   
果実 ・未熟時の果実の色 濃緑 or 緑 or 黄緑 or 黄白
  ・熟した時の果実の色 赤 or 濃オレンジ
  ・果実の脱落性 有り or 無し
  ・果実の先端の形 point or blunt or sunken
   
花柄・果柄  ・花柄の色 緑 or 薄紫 or 濃紫
  ・果実が熟した時の成り方 直立 or 平行
   
その他 ・胚軸の色 緑 or 紫


Table 1. Geographic distribution of 11 qualitative characters which are considered to be useful characters to categorize C. frutescens in Southeast and East Asia. (Yamamoto and Nawata 2004)

Fig. 2. Morphological differences. (Yamamoto and Nawata 2004)
1:花のスポット A(スポットあり)B(スポットなし)
2:葯の色 A(青色)B(黄色ががった青色)C(黄色)
3:未熟時の果実の色の違い
4:熟したときの果実の色の違い
5:果実の成り方 A(直立)B(平行)
6:果実の先端の形状 A(point)B(blunt)C(sunken)
7:葉の形の違い A(幅広)B(中間)C(細長、ただしこれはC. annuum)



2. 量的形質

花の器官  ・花冠の直径(mm)
  ・花弁の長さ(mm)
  ・花柄の長さ(mm)
  ・雄蘂の長さ(mm)
  ・雌蘂の長さ(mm)
   
果実 ・果実の長さ(mm)
  ・果実の幅(mm)
  ・果実の大きさ(長さ×幅)(mm2
  ・果実の形(長さ/幅)
  ・果実一つ当たりの種子数
  ・種子100個の重さ(mg)
   
その他 ・草丈
  ・分枝の数
  ・葉の形(長さ/幅)


 上記に示したような量的形質を測定し、各形質間の相関関係(どれくらい関係が深いか。数値が高いほど関係が深い)を見てみました(Table 2)。その結果、草丈や花の器官の大きさ(長さ)、果実の大きさ(長さ)、果実一つ当たりの種子数、種子の重さなどには高い相関関係がありました。つまり、極端な言い方をするとすれば、大きな植物は大きな花・果実をつけ、大きな種子を作り出す、全ての器官が巨大化している、ということがわかりました。

Table 2. Correlation coefficients among 14 quantitative characters. * and ** indicate the correlation coefficients at p < 0.05 and p < 0.01 respectively. (Yamamoto and Nawata 2004)



3. 東南アジア・東アジアに分布するキダチトウガラシの分類
 東南アジア・東アジアに分布するキダチトウガラシ90系統は、質的形質のデータを用いてクラスター分析によって4つの型に、量的形質のデータからもクラスター分析によって4つの型に分類されました(詳しくは論文をみてください)。そのそれぞれの型の組合せ(質的の4つの型×量的の4つの型=理論上16の型)から、9つの型に分類されました(Table 3)。


Table 3. Classification of C. frutescens in Southeast and East Asia based on qualitative and quantitative characters. (Yamamoto and Nawata 2004)


分類の結果
3-1. 全般

 XBYD・XCYD・XDYDに分類にされた系統は、果実が大きく(全ての器官が巨大化している)、果実に脱落性がなく、果実は直立ではなく平行に成るという傾向がありました。植物が人間によって栽培されはじめると、植物は果実の脱落性(果実が熟すと萼からポロリと落ちる、離れる)をうしなったり、利用する部位(キダチトウガラシの場合は果実)が肥大したりすることが知られています。人間にしてみると、収穫前に果実が落ちてしまっては困りますし、果実が上を向いていると鳥に食べられてしまう可能性が高いため下向きになってもらいたいし、できれば大きな果実が欲しい、ということでしょうか。このようにして人間の選択がかかるのですね(ただし僕は、このような話についていくつかの疑問点があり、研究の余地あり!といったところです)。これらのことから、XBYD・XCYD・XDYDに分類にされた系統はより栽培化されていると言えます。
 それに対し、XAYC・XBYCの分類された系統は、果実が小さく(量的形質で全ての器官が小さい傾向にあった)、果実の脱落性があり、果実は直立して成るという傾向がありました。この傾向は、これらの系統がより野生に近いことを示していると考えられます。実際に、感覚的にとしかいいようがないのですが、XAYC・XBYCの分類された系統は草丈が低く、そのかわり枝をたくさんだし、たくさんの実(株当たりに数的に多い)をつけていたように思います(確信しています・・・)。野生に近い、あるいはほとんど野生のもの、という印象です。
 今後、東南アジア・東アジアにおけるキダチトウガラシの野生・栽培化、栽培の過程(ドメスティケーション)などを研究していきたいと考えています。

3-2. 沖縄のキダチトウガラシ
 沖縄で採取してきたキダチトウガラシ17系統の形態的特徴は、地域間で差異はなく、全て同じ質的形質を示し(様々な器官の色などが全て同じ)、量的形質(果実の大きさなど)もかなり均一でした。このことから、沖縄のキダチトウガラシには形態的に多様でないことがわかりました。はたして遺伝的にはどうなのでしょうか?次のアイソザイム分析の結果を見てみましょう。



(Reference)
Sota Yamamoto and Eiji Nawata. 2004. Morphological charactes and numerical taxonomic study of Capsicum frutescens in Southeast and East Asia. Tropics 14(1): 111-121.



注:このページの写真やグラフなどは既に論文に掲載されているもので、copy right は出版社(あるいは学会)にあります。無断に転用やコピーをしないでください。

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