〜研究内容〜
東南アジア・東アジアにおける

キダチトウガラシのアイソザイム分析

〜研究内容〜

1. 形態的特徴の違い

2. アイソザイム分析

3. 種子の休眠性

4. 日長反応性1

5. 日長反応性(作成中)

6. 台湾・バタン(作成中)

 東南アジア・東アジアに分布するキダチトウガラシのアイソザイム分析を行いましたので、ここで紹介したいと思います。この論文の内容はEconomic BotanyEconomic Botanyのメインページ)に掲載されていますので、詳しく御覧になりたい方は参照してください。

研究結果

材料と方法
 東南アジア・東アジアに分布する144系統(南西諸島19系統、小笠原諸島8系統、インドネシア29系統、フィリピン3系統、タイ73系統、ベトナム10系統、ラオス2系統)についてアイソザイム分析をおこないました(Fig. 1)。

Fig. 1. Collection sites for Capsicum frutescens in Southeast and East Asia (: collected sites). A: Continental region of Southeast Asia, B: the Bonin Islands, C: Philippines, D: the Ryukyu Islands, E: Eastern Indonesia, F: Irian Jaya. (Yamamoto and Nawata 2005)

 今回実験で使用した酵素の中で、複数の型(下の図でA型やB型などがあると思います)を示した酵素はEST(エステラーゼ)、FM(フマラーゼ)、G6PD(グルコース-6-リン酸脱水素酵素)、GR(グルタチオンレダクターゼ)、ME(A)(リンゴ酸酵素(A))、PGI(ホスホグルコースイソメラーゼ)、PGM(ホスホグルコムターゼ)、ShDH(シキミ酸脱水素酵素)の8酵素でした(Fig. 2)。
 同じ作用をする酵素でも分子量(酵素の場合タンパク質の重さ)が違うことがあります。例えば、ビールをよく飲む僕がお世話になっているアルコール脱水素酵素(ADH)。人間のADHとキダチトウガラシのADHとは同じ作用(アルコールから水素をとる)をしますが、酵素の構造や分子量は全く違います。これと同じことがキダチトウガラシの種内でもありえるのです。あるキダチトウガラシの系統はESTのA型をもち、また違う系統はESTのB型をもつ、というわけです。下の図では Rf value が小さいほど分子量が小さいということを示しています。
 このような「」の組合せ(ある系統は全てA型をもつ、またある系統は全てB型をもつ、などの組合せ)の違いから、東南アジア・東アジアで採取してきた144系統を分類しました。

Fig. 2. Schematic zymograms of eight isozymes. (Yamamoto and Nawata 2005)


分類の結果
1. 南西諸島系統

 沖縄で採取した19系統全てが、上記の8酵素において同じ型の組合せ(ESTのA型、FMのA型、G6PDのA型、GRのA型、ME(A)のA型、PGIのA型、PGMのA型、ShDHのB型)をもっていました。このことから沖縄で栽培されているキダチトウガラシは遺伝的にも多様でないことがわかりました。形態的にも多様でなかった結果と一致します(see 形態的特徴の違い)。多様性がないということは、伝播の終点の一つであると考えられます。作物の起源地や、その作物の生育に適した地域、あるいはその作物をよく利用する地域などでは、作物(その祖先種も含めて)の多様性が増します。それに対し、作物の生育がぎりぎりの地域、伝播の終点で(あるいは伝播の途中でもなんらかの原因で)持ち込まれる品種(系統)が限定される地域などでは多様性がなくなります。沖縄の場合、歴史的に見て伝播の終点、生育環境もキダチトウガラシにとってはぎりぎり、といったところです。
 南西諸島系統は、東南アジア・東アジアでは稀なShDHのB型をもっていました。実験に用いた144系統のうち、南西諸島系統を除くと、ShDHのB型をもっていたのはインドネシアの2系統のみでした。そのほかの酵素の組合せからも、南西諸島系統はインドネシアの1系統とかなり近縁であることがわかりました。南西諸島系統は、インドネシアから直接、あるいは東南アジアの島嶼部(フィリピン、台湾など)を経由して、南西諸島へ伝播してきたと考えられます(Fig. 3)。

2. 小笠原諸島系統
 小笠原諸島で採取した8系統全てが、上記の8酵素において同じ型の組合せ(ESTのB型、FMのA型、G6PDのA型、GRのB型、ME(A)のA型、PGIのB型、PGMのA型、ShDHのC型)をもっていました。南西諸島系統と同じく、小笠原諸島系統も遺伝的に多様でないことがわかりました。伝播の終点の一つであると考えられます。
 小笠原諸島系統がもっていた酵素の型の組合せと全く同じ組合せをもつ系統が、北タイ・インドネシアに分布しました。今後これらのグループがどのように伝播していったのかを調査したいと考えています。
 現在父島、母島で利用されているキダチトウガラシは硫黄島から導入されたものですが、硫黄島へは南の島々から伝播してきたのでしょうか?今後この伝播経路を調べたいと考えています。

Fig. 3. Possible dispersal routes of Capsicum frutescens into Japan. A: into the Ryukyu Islands, B: into the Bonin Islands (including a dispersal route of accessions belong to Profile 26). (Yamamoto and Nawata 2005)


Fig. 4. キダチトウガラシの伝播(想像・妄想・希望も含みます!?)
・赤色の点は南西諸島系統、及びそれに近縁の系統
・黄色の点は小笠原諸島系統、及びそれに近縁の系統





(Reference)
Sota Yamamoto and Eiji Nawata. 2005. Capsicum frutescens L. in Southeast and East Asia, and its dispersal routes in Japan. Economic Botany 59(1): 18-28.



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