調!?
台湾編中部(1)

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☆台湾中部1(カバラン、アミ)


台東県長濱郷南竹湖
■俗名
カバラン:sili (台東県長濱郷太峯峯

アミ:
花蓮県光復郷
    atikiway (small fruit type)
    samsam, lamlam (bigger fruit type)
    dumun
   
台東県長濱郷
    laileng (small fruit type)
    zamzam, samsam, lamlam (general)
   台東県池上郷、台東県台東
    ngangangyw
    ngangagiway, kangangiway
    kasipiray
    lingkiw
    twomun
    lokongkongay
    samsam
    kamamulay
    gamamulu

■特別な利用例:塩漬け・蒸留酒につける・刺身を食べるとき

 台湾島の東側に居住するアミとカバランが利用するキダチトウガラシを、花蓮県光復郷(馬太鞍村)、台東県池上郷(池上)、台東県長濱郷(楠原村、太峯峯、永福、南竹湖)で調べてきました。台東県長濱郷の海沿いの村々は、北部地域の山村とはずいぶん雰囲気が異なり、どことなく魚のにおいがするようなしないような。海を見ていると、刺身を食べてビール、という気分に駆られました。


・台東県長濱郷楠原村(アミ(Ami))
 池上に泊まっていたので、タクシーを借りて池上から玉里へ行き、そこから30号線で海岸山脈をつっきりました。山にはビンロウ畑がちらほら。峠はトンネル。そのトンネルを抜けると海が見えました。ひさびさの海。やはり海はいいですね。まず長濱の役所へ行って原住民の村についての情報を得ました。すると楠原というところにアミとカバランがいる、ということなのでそこへ向いました。カバランのキダチトウガラシの情報はこれまでに全く得られていなかったので楽しみ。右手に海を眺めながら北上。楠原にはいって村を歩くと、早速ホームガーデンの中にキダチトウガラシを発見。その庭のすぐそばにあった家へ行ってみると、その家のおばあさんは畑の持ち主ではなく、向かいの家の人が持ち主でした。せっかくなのでおばあさんにインタビューをさせてもらいました。その後、畑の持ち主である向かいの家へ行くと、おじさんがいたのでインタビューをさせてもらい、あとでホームガーデンのキダチトウガラシを観察させてもらいました。カバランについて聞くと、少し北に行った大峯峯がカバランの集落とのことで、次はそこへ向かいました。


■アミのおばあさん(楠原村) ■ホームガーデンのキダチトウガラシ



・台東県長濱郷太峯峯(カバラン(Kavalan))
 大峯峯へ行ってみると村は小さく、20軒もないのでなないだろうか。車を止めるとキダチトウガラシが見えます。そこでその家の人に声をかけインタビューさせてもらい、キダチトウガラシを観察。その辺から勝手にぽこぽこと雑草のように生えてくるのだそうだ。インタビューの間、タクシーの運転手のおばちゃんが何本か自生のキダチトウガラシを引き抜いていました。家で植えるらしい(辛いものが好きなのだ)。村の真ん中におじいさんがイスに寝転んでいたのでインタビューしました。結構日本語を話すことができました。現在孫が大阪で日本語の勉強をしているとも言っていました。家の敷地にキダチトウガラシが二本自生していました(?栽培かな?)。カバランのトウガラシ属の呼び名は「sili」とのこと。これは台湾のすぐ南に位置するフィリピンのバタン諸島における呼称と同じでした(詳しくはバタン諸島編へ)。

■カバランのお二人(太峯峯)

■畑に植えられたキダチトウガラシ

■インタビューをしたおばさん

■自生していたキダチトウガラシ

■太峯峯村からの風景1 ■太峯峯村からの風景2



・台東県長濱郷永福(アミ)
 大峯峯から長濱へ戻る途中、パパイヤの下にキダチトウガラシが植えられている畑がありました。キダチトウガラシがこんなにたくさん植わっているのはひさびさに見たような気がしました。台湾でははじめてかも。長濱の町へ戻ると、さすが海のそばの町。さしみが食べられるし、魚料理もたくさんありました。昼食後、長濱の少し南に位置する永福へ向かいました。キダチトウガラシを庭に植えている家があったので、そこのおばちゃんにインタビュー。昔醤油なんてなかったので、刺身を食べるときにキダチトウガラシをつぶして塩をいれて、それに刺身をつけて食べていたそうです。また、老人の話によると、キダチトウガラシを食べてもおなかを壊さないが、大きい果実のトウガラシ(C. annuum)を食べ過ぎるとおなかが痛くなる、ともおっしゃっていました。そのあと、その人の家の近くの荒地に自生していたキダチトウガラシを観察していると、おばちゃんの知り合いの83歳のおじいちゃんが農薬の樽をバイクに載せてやってきました。これはしめたと思い、インタビューをさせてもらいました。結構日本語ができる。インタビューがしやすかったです。いろいろ教えてもらいました。食べるぎると目に悪い、と言っていました。

■パパイヤとキダチトウガラシ

■村と村の間の風景1

■村と村の間の風景2(青い海)

■永福村の風景1(入り口)

■永福村の風景2(村の中)

■宴会でご機嫌のアミのおばさま方

■アミのおばさん(永福村)

■アミのおばさんの畑のキダチ

■アミのおじいさん(永福村) ■荒地に自生するキダチトウガラシ



・台東県長濱郷南竹湖(アミ)
 南竹湖では、おばあちゃんが数人で子供をあやしていたので、インタビューさせてもらいました。始めは日本語ができませんでしたが、だんだん思い出してきていくらか話をすることができました。庭にキダチトウガラシが植えてあったの観察させてもらいました。そばにはえていたドラゴンフルーツをおばちゃんがとってきてくれました。喉が渇いていたのでさっぱりとしていて少し酸味のあるドラゴンフルーツはとてもおいしかったです。インタビューをしていて、人々の優しさを感じる瞬間です。そろそろおいとましようかと思っていると、もう一人おばあさんがやってきました。なんと88歳。願ったり適ったりで、インタビューをさせてもらいました

■南竹湖村の風景1(入り口)

■南竹湖村(村内、海側を見たとき)
■畑のキダチ(手前少し右)

■アミの人々(南竹湖)

■ドラゴンンフルーツの間にキダチ

■キダチトウガラシの花

■頂いたドラゴンフルーツの果実

■アミのおばあちゃん1(タバコ)

■アミのおばあちゃん2(88歳) ■アミのこども(南竹湖)



・台東県長濱池上郷および台東県台東(アミ)
 池上では85歳のアミのおじいさんに出会いました。キダチトウガラシを持ってきてくれたのですが、なんと瓶の中のキダチトウガラシの表面にはカビが生えていました。こうすると酸味があっておいしいらしいです・・・(ほんとかな?)。おじいさんの家の前に小型の果実のキダチトウガラシがあったので観察しました。

■アミのおじいさん(池上)

■カビの生えたキダチ醤油漬け(池上)
■ホームガーデンのキダチ1(池上)

■ホームガーデンのキダチ2(池上)

■池上の風景

■池上での朝食(饅頭と豆乳)

■池上のホテル ■池上のホテルはただ飯でした



・花蓮県光復郷馬太鞍村(アミ)
 花蓮県光復郷馬太鞍村へは別の日に向かいました。村へ着いたときは雨。雨が降ると外にいる人々が家の中に入り、軒先にいる人々も家に入るため、インタビュー調査がしにくかったです。とりあえず村の一番山側へ行ってみると、キダチトウガラシが自生していました。その辺を歩いてみると、キダチトウガラシの自生があちらこちらの道端で見つかりました。キダチトウガラシの栽培の頻度が高いこと、このキダチトウガラシの系統の果実が小さく脱落性を持っていること、気候が年間を通じて温暖(暑い)なことなどが要因として考えらます。町の中で人にインタビューをしようとしてもなかなか人が見つからない。ここだ、と思って訪れた家は留守。雨もきつくなってきてほとほと困っていると、そこに一人のおじさんが歩いてきました。傘もささず、靴も履かず、でも顔つきはしっかりと歩いてくる。どうしたのか?と聞いてみると、車が故障をしたから、助けを求めに来た、と。それならとりあえずタクシーに乗って雨宿りでもしたら?それとも家まで送ろうか?と提案してみると、もう一人が車で待っているから悠長なことは言っていられない、と言います。あわよくばインタビューしようと僕は思っていましたが無理でした。ただ、そのおじさんは僕らがしたいことをよく理解してくれて、あそこへ行けばアミの話が聞けるよ、とある場所を教えてくれました。とりあえずそこへ向かってみると、お洒落なカフェがありました。雨にあたり体が冷え切っていたので温かい飲み物を注文した後、店員さんに本題を切り出しました。トウガラシを研究していて、アミ語を話せる人はいませんか?そうすると店員は待ってください、といい、プロレスラーになれそうな体つきのいい元気一杯のお姉さんを連れてきてくれました。聞くと店長(オーナー)らしい。実はここは有名なカフェで、日本のガイドブックにも載っている場所らしいです。この方は料理研究家でもあるらしい。海外のテレビ局も取材に来たとのこと。トウガラシにまつわる話をいろいろ聞かせてもらいました(残念ながら写真が見当たりませんでした・・・)。

■畑で栽培されるキダチ(右端)

■左の写真のキダチ拡大

■雨の中での調査

■雨に濡れたキダチ(とわたし)

■キダチ自生1(電信柱の左隣)

■キダチ自生2(真ん中の木の下)

■キダチ自生3(左下) ■キダチ自生3(拡大)



☆カバラン・アミのトウガラシ属・ショウガ・山胡椒のまとめ
 今回の調査ではアミのトウガラシ属の呼称が他のエスニックグループより多い結果となりました。しかし、その内容を見てみると、「atykiway」はブヌン語の「atykishi(小さいの意)」と、「gamamulu」,「kamamuray」はパイワン、ピューマ、ルカイの、そして「samsam」は南ツオウのトウガラシ属の呼称と、類似あるいは同じでした。他のエスニックグループからアミはトウガラシ属を好むといわれており、アミは自他共に認めるトウガラシ好きです。80年以上前の資料には「アミ族ではトウガラシも厭勝的効能あるものとされ、巫師修行中は数日間トウガラシのみを食べる地方もある(普通はショウガをそのように食べる)」とありますが(岡松 1921)、他のエスニックグループではそのような報告はありません。以上のようなアミのトウガラシ属に対する嗜好性や関心の高さが、他のエスニックグループからの呼称の借用や、新しい呼称の創造に関与しているのかもしれません。また、アミの居住域は南北に長く、たくさんのエスニックグループと接しています。そのような交流の多さが、トウガラシ属の名前の多さに関与しているかもしれません。
 カバランのトウガラシ属の呼称である「sili」は、フィリピンのバタン諸島のものと同じです。このことはバタン諸島編で触れたいと思います。
 北部地域の原住民と異なり、アミ・カバランのトウガラシ属の呼称はショウガと違いました。つまり、トウガラシ属に何かしらの特別の名前が与えられています。またアミの場合は、トウガラシ属の一般名とは別に果実の小さいキダチトウガラシに対して特別な名前が与えられていることも注目すべき点だと思います。

(台湾原住民すべてのまとめはここへ

☆カバラン・アミの呼称のまとめ☆




(Reference)
山本宗立 2006. 台湾原住民が利用するキダチトウガラシ. 日本熱帯生態学会ニューズレター 65: 1-7.
Sota Yamamoto 2006. Capsicum frutescens L. used by indigenous peoples in Taiwan. Tropical Ecology Letters 65: 1-7.

岡松参太郎  「臺灣番族慣習研究 第壹巻」 1921 臺灣總督府番族調査會 出版地不明


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