調!?
台湾編南部(3)

〜いろんな地域のキダチトウガラシ〜
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☆台湾南部3(ヤミ)


蘭嶼
■俗名
ヤミ:tongarashi

※rarasa (鹿野 1946)
■特別な利用例:塩漬け・蒸留酒につける

 台湾島から少し離れた蘭嶼(紅頭嶼、Orchid Island)へ行ってきました。一日で行って帰っての強行日程。朝8時半のフライトでした。寝ぼけたまま台東の空港へ行き、飛行機へ向かうと、何ともちいさなプロペラ機でした。乗員は17人、乗組員2人。ブーンと空へあがると、雲をつきぬけ、雲の少し上で水平に飛びました。見渡す限りの雲。陳腐な言い方ですが、本当に雲が綿菓子のようであり、何とも言えない感動がありました。昔から鳥になって空を飛びたいと思っていましたが、このときばかりは生まれ変わったら飛行機乗りになりたい、と思いました。ジャンボジェットにしか乗ったことがなった僕は今まで「空を飛んでいる」という本当の感じを味わったことがなかったのだ、とわかりました。いろんな妄想に耽ってひとりニヤニヤしていました。

■プロペラ機(蘭嶼の空港) ■なぜか白い冷たい空気が・・・・・



 蘭嶼へつくと快晴で、温度も台東とは比べ物にならないほど熱く、やっと熱帯へ来たという実感を覚えました。空港でレンタルバイク屋をやっているおじさんがいたのでバイクを借り、ついでにキダチトウガラシのことについても聞いてみました。するとあるよあるよ、蘭嶼にもあるよ、と言います。その方は残念なことにヤミの方ではなかったので言語のデータは手に入りませんでした。知り合いの畑へ行き、ここに小辣椒(キダチトウガラシを指すことが多い)があるよーっと言ってずかずかと畑に入っていきます。わざわざ連れてきてくれたのです。ほらあそこ、とみるとキダチトウガラシが何本も生えています。おじさんはこっちにもあっちにもあるよあるよ、とどんどん紹介してくれます。ちょっと、ちょっとまってください、といって、一つずつ花や果実を見て回って写真を撮り観察しました。沖縄型様のものと、緑熟色が緑色のぷっくりした果実の系統がありました。明らかに栽培している株と、その辺の草むらから生えている自生の株がありました。畑の中で栽培しているキダチトウガラシの頻度が高いことと、気候がいいこと、また鳥が止まりやすい木が何本も畑の中に生えている、などといった好条件のせいでしょう。それにしても熱い。汗がだらだらと流れる中、写真を撮りまくりました。


■畑のキダチトウガラシ(蘭嶼) ■黄緑タイプ(上)と緑タイプ(下)



 あんまりおじさんの商売の邪魔をしても悪いのでいいところで切り上げ、島を周遊することにしました。まず初めの村に行ってみると、村に人影がない。もぬけの空でした。村へ入る前の交差点に雑貨屋さんがあったことを覚えていたのでそこへ行ってみました。そこにはおばあちゃんがいたのでインタビューを開始しました。なんとトウガラシ属のことはヤミ語でトンガラシというようです。彼らの固有の言語の中に日本語が取り入れられているのです。サツマイモ畑にあるよ、ということを言っていました。また少し道を行くと小さな村があったので寄ってみました。そこにもほとんど人がおらず、みんな畑にでも出ているのだろうか?一集団だけいて、おばちゃんたちが酒を飲んでいました。話を聞いてみると、やはりサツマイモ畑にあるよ、植えたわけではなく勝手に生えてきたよ、といいます。しかし、インタビューにあまり好感を持っていない感じがしたので、早々に切り上げました。次の村へ行く途中、一人のおじさんが畑の木の木陰で休んでいたのでインタビューをしてみました。その方はヤミではなくアミの方でしたが、とりあえずアミのデータを手に入れました。すると奥さんはヤミの方で、僕らが今から行こうとしている村にいるとのこと。それではその奥様を訪ねようと家の場所を聞いてブーンとバイクで向いました。何とかたどり着き、奥様にインタビューをしました。ホームガーデンにキダチトウガラシの苗や花をつけた株がありましたが、残念なことに熟した果実はありませんでした。鳥にキダチトウガラシの果実が食べられるということで、鳥よけのピカピカひかるビニールがいくつか縄に吊るしてありました。インタビューの途中、かわいい男の子が家に帰ってきました。一番小さな子供さんかと思ったら何と孫でした。キダチトウガラシの種子はどこから手に入れましたか?と聞くと、奥様のお母さんから手に入れた、と答えました。お母さんは山の畑か山から手に入れたと言っていたので、とりあえず山を目指しキダチトウガラシの自生を探そうと試みました。教えてもらった道を進んでいる途中、タロイモを栽培している風景がとても美しかったです。そうしていると急に道がなくなり、それ以上は先に進めず、進むにしても藪の中を歩いていかなければならず、山の散策はあきらめました。

■途中の風景1

■途中の風景2

■ヤミ女性(蘭嶼)

■ホームガーデンのキダチ1

■ホームガーデンのキダチ2

■ビニールを裂いて作った鳥よけ

■途中の風景3 ■タロイモの畑



 蘭嶼の真ん中あたりを走っている山道を横断して空港側へ向かおう、もしかしたら山道でキダチトウガラシの自生を確認できるかもしれない、ということでかなり急な坂道をバイクで登り始めました。いくら登ってもキダチトウガラシの自生が見つからない。こうなったらいい景気でも眺めて観光してやる、と山頂近くから海側の写真をパチリ。キダチトウガラシのことを半ば明らめて、のんびり植物鑑賞をしながら山頂から下り始めました。いくぶん山を下ったとき、パパイヤの幼木を発見しました。ん?もしかしたら???とみんなに叫んだ。なぜかというと、沖縄でも小笠原諸島でもパパイヤとキダチトウガラシがセットで自生していることが多かったからです。もしかしたらあるかもよーとみんなに告げて意気揚々とバイクを転がす(まさに転がす、といった感じで、あまりに急な坂なため、エンジンを切って位置エネルギーを利用してバイクを転がしていました)。下っていると、あった!!!と同行人が叫びました。急いでバイクをとめ、確認しにいったところ、確かにありました。自生のキダチトウガラシをついに発見。まだ幼く、花すら咲いていないただの雑草でした。写真を撮ろうとファインダーを覗くと、あれ?どこだっけ?とわからなくなるくない、雑草によくまぎれていました。少し行ったところで数人が道端の雑草刈りの休憩中だったので、すこしキダチトウガラシについて質問をしてみました。さすがにおなかが減ってきたので草刈りのおじさんおばさんに別れを告げ、ご飯屋さんを探しバイクを走らせました。店が見つかったのでそこで焼きソバを食べ、休憩後、もう飛行機の時間が迫っていたので空港へ向かいました。空港近くの畑にもキダチトウガラシがあったので観察し、たまたまそこにいた畑の持ち主にインタビューをしました。

■途中の風景4

■途中の風景5

■途中の風景6

■ここまでアップ(ただの雑草です)

■少しアップ(まだよくわからん)

■ここまでアップ(それでも雑草)

■畑のキダチ1(空港近く) ■畑のキダチ2(空港近く)



☆南部に住む台湾原住民のトウガラシ属・ショウガ・山胡椒のまとめ
 ヤミはトウガラシ属を「tongarashi」と呼び、その呼称は日本統治時代に日本人から教えられたのではないだろうか、と答えていました、また、彼らはショウガを「manugit」と呼び、「辛い(からい)」も「manugit」と表現しました。鹿野(1946)はヤミ語のトウガラシ属、ショウガの呼称をそれぞれ「rarasa」,「anaga」と報告しています。鹿野(1946)が報告したその他のヤミの植物名称を『蘭嶼島雅美民族植物』(鄭・呂 2000)に書かれているヤミ語と照らし合わせてみると、ほぼ一致します。鹿野が調査した後に、トウガラシ属やショウガに用いるヤミの呼称は大きく変わったのかもしれません。


☆ルカイ・プユマ・パイワンの呼称のまとめ☆



☆台湾原住民のトウガラシ属・ショウガ・山胡椒のまとめ

 台湾原住民が住んでいる地域の緯度が低くなってくると、キダチトウガラシの分布・利用・重要度が高くなり、逆に山胡椒の分布・利用・重要度が低くなることがわかり、このことがトウガラシ属の呼称に影響を与えていると考えられました。つまり、北部地域ではトウガラシ属をショウガと同じ名前で呼び、中部地域ではキダチトウガラシはトウガラシ(C. annuum)と区別するときにトウガラシ属の総称に「小さい」などの形容詞をつけて区別し、南部地域ではトウガラシ属の一般名とキダチトウガラシを別の名前で呼んでいました。もっともっと情報を集めたいと思います。

☆台湾原住民のトウガラシ属の呼称のまとめ☆




(Reference)
山本宗立 2006. 台湾原住民が利用するキダチトウガラシ. 日本熱帯生態学会ニューズレター 65: 1-7.
Sota Yamamoto 2006. Capsicum frutescens L. used by indigenous peoples in Taiwan. Tropical Ecology Letters 65: 1-7.


鹿野忠雄 「東南亞細亞民族學先史學研究 第一巻」 1946 矢島書房 東京
鄭漢文・呂勝由 「蘭嶼島雅美民族植物」 2000 地景企業股?有限公司 台北



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